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フィルムスクールへ行くには

ひと口にフィルムスクールといっても、修学期間、カリキュラム、校風に大きな違いがある。5大プロデュース学科をベースに、比較すべきポイントを挙げながら、各校の歴史、教育方針、カリキュラムを解説していく。

留学目的・動機の明確化

留学前の心構え

フィルムスクールのプロデュース学科を卒業したからといって、誰もが映画プロデューサーになれるわけではない。とはいえ、卒業生の多くはコンテンツ産業に携わっており、キャリアアップに有用であることは確かだ。プロデューサーとしての資質を磨き、人脈を築けるフィルムスクールは、映像ビジネスで成功を収めたい人にとって申し分のない教育機関といえる。

ただし、フィルムスクールの門は極めて狭い。ごく限られた定員枠をめぐって世界中から志望者が集まり、その倍率は数十倍にものぼる。語学力、学業成績、クリエイティビティ、情熱、ストーリーテリングの能力など、さまざまな角度から審査が行なわれ、ふるいに掛けられていく。生半可な気持ちで挑んでも、見向きもされないだろう。

そのため出願前には、語学を含めたスキルを身につけること、「なぜフィルムスクールで学ぶのか」という動機を明確化することが必要となる。今一度、自身の足跡を振り返り、留学目的、動機をしっかり確認してほしい。

また、留学前にメンター (専門知識やスキル、経験が豊富な指導者、助言者) を持つことも勧めておく。出願時に推薦状を依頼するという実利的な目的もあるが、メンターに師事する理由はそれだけではない。目指す業界の先達に学び、アドバイスを受けることは、「自分に足りない資質は何か」「何のために留学し、何を学ぶべきか」と改めて自身を見つめなおす好機にもなる。留学のモチベーション向上、その後のキャリア形成のためにも、メンターの存在は大きな役割を果たしてくれるだろう。

プロデュース学科選択のポイント

前章で取り上げた5 大プロデュース学科はいずれも伝統と実績を誇る名門だが、カリキュラム、学風、所在地、学費などは大きく異なる。また、必要となる学費や生活費といった現実的な問題ものし掛かってくる。自分がどのスクールを選ぶべきか、出願前に検討すべき4 つのポイントを紹介する。

取得できる学位―MFAか、MFAとMBAか―

5大プロデュース学科を修了すると、MFA を取得することができる。クリエイティブ・シンキング、デザイン・シンキングが注目を集める昨今、MFA はビジネスの世界でも脚光を浴びつつある。現在、ハリウッドでプロデューサーとして活躍する修士号保持者は、MBA とロースクール出身者 (弁護士) が2 大勢力だが、今後はMFA保持者の割合も増えていくだろう。

そもそもプロデューサーとは、クリエイティブとビジネスを融合させた職務である。映画製作において重視すべきストーリーテリングに携わるには、クリエイティブ能力は必要不可欠だ。フィルムスクールで得られるMFAは、クリエイティブ能力の証ともなりうる。エンタテインメントビジネスを志すなら、大きな武器となるだろう。

5大プロデュース学科すべてでMFA を取得できるが、唯一NYU のみがMFA とMBA の学位を両方とも取得できる。修了までに3 年を要するが、一考する価値のある選択肢だ。

製作のスタイル―スタジオ系か、インディペンデント系か―

フィルムスクールを特徴づける基軸のひとつが「スタジオ系か、インディペンデント系か」という点である。スタジオ系の大学はメジャー映画スタジオを中心としたシステムの中で働くことを前提とし、インディペンデント系ではスタジオに頼らず映画を製作する方法を学ぶ。5 大プロデュース学科は、スタジオ系とインディペンデント系のどちらに強いかという傾向がはっきり分かれており、選択時の大きな指針となる。

例えば、スタジオ系に強いプロデュース学科はハリウッドで働くことを前提した授業を行ない、教員の顔ぶれもメジャー映画スタジオや大手タレント・エージェンシーの現役社員が多い。当然、築くことができる人脈も大きく変わってくるだろう。一方、インディペンデント系に強いプロデュース学科はヨーロピアンスタイルの映画製作について学ぶ機会が多く、学生もアートフィルム志向が強い。こうした傾向の違いは修学中だけでなく、卒業後の進路にも大きな影響を及ぼしている。

なお、5 大プロデュース学科でスタジオ系に強いのはUSC とAFI、インディペンデント系に強いのはNYU とColumbia だろう。

地理的要因―西海岸か、東海岸か―

5大プロデュース学科のうち、USC、AFI、UCLA はアメリカの西海岸、NYU、Columbia は東海岸に位置する。このような物理ロケーションも、各校を特徴づける一要素だ。というのも、フィルムスクールにはフルタイムの教員がぼ存在せず、現役クリエイター、現役ビジネスマンが教鞭を執っているからである。西海岸に位置する大学では西海岸のクリエイターが、東海岸に位置する大学では東海岸のクリエイターが教員を務めるのが通例だ。前述の「スタジオ系か、インディペンデント系か」ということもオーバーラップするが、大学の所在地は卒業後の進路にも影響を与える重要なファクターといえる。

西海岸の強みは、当然ながらハリウッドに近いということだ。Warner Bros. Pictures 、20th Century Fox 、Walt Disney Pictures 、Sony Pictures 、Paramount Pictures 、Universal Pictures の6 大メジャー映画スタジオ、William Morris Endeavor (WME) 、Creative Artists Agency (CAA) 、International Creative Management (ICM) 、United Talent Agency (UTA) の4大タレント・エージェンシー、多くの有名プロダクションの製作機能は、ロサンゼルスに集結している。ハリウッドへのアプローチ、インターンシップの機会では、西海岸が圧倒的に優位だろう。

一方、東海岸の強みは、ニューヨークをはじめ、クリエイティブな刺激にあふれている点だ。ニューヨークではアートフィルムが数多く公開されており、毎週のように映画館で小さな映画祭が開かれている。世界のトレンド発信地であるニューヨークに身を置き、映画はもちろん、美術、舞台、音楽、ファッションなど、さまざまな芸術に触れることはクリエイターにとって至上の体験となるだろう。また、ニューヨークの映画産業は演劇からの影響を色濃く受けているため、俳優への演技指導がうまい監督が比較的多く育つともいわれている。

西海岸と東海岸では、生活スタイルも大きく異なる。ロサンゼルスやカリフォルニアは車での移動を基本とするが、ニューヨークではほとんどの学生が車を持っていない。撮影で使う機材はレンタカーやタクシーなどに載せて移動するので、学生レベルのロケでは制約が多いようだ。また、撮影場所を見つけて許可を取るにも苦労を伴い、必然的に知人が住むマンションなど室内での撮影やニューヨーク市街でのロケが多くなる。そのため、東海岸と西海岸ではプロダクションの実質的な製作行程に大きな違いがあり、結果、各校の教育内容も地域の製作スタイルに根ざし、その実態に即したものになっている。

さらに、留学に必要な経費も大きく異なる。西海岸よりも東海岸のほうが学費が高く、住居の賃料などの生活費も総じて高い。例えば、Columbia では3 年間の授業料だけで約10万ドルにのぼり、そのうえニューヨークならではの高額な家賃や生活費がのし掛かってくる。奨学金を受けたとしても、財政的な負担は東海岸のほうが大きいだろう。いずれにせよ、修学中は無給のインターンシップに参加することも推奨されるため (USC は希望者に有償のインターンシップを斡旋するが) 、総じて資金に余裕がないと卒業することもままならない。このように何を重視するかによって、選ぶべきフィルムスクールも変わってくる。

留学時期―学生留学か、社会人留学か―

大学卒業後にそのままフィルムスクールへ入学するのか、社会人として実務経験を経てから入学するのか。留学時期も大きな検討事項である。

AFIは実践経験を重視するため、映像製作経験のある人が求められる。とはいえ、受賞歴やインターンシップ歴がある優秀な人材なら、学部生からそのまま入学するケースもあるようだ。Columbiaは大学において映画を専攻している必要はないが、プロデューシングの本質、製作の流れを理解している経験者を求めている。映画でなくとも、テレビ、CMなど映像製作に携わったことがある人材が望ましい。一方、USCは製作経験よりも「どれだけ強いストーリーを持っているか」というポテンシャル、素質を重視して入学者を選んでいるようだ。

一般的に、フィルムスクールは"キャリアアップ"の場と認識されている。大学卒業後、企業の中である程度キャリアを積み、次のステップに進むためのきっかけとして入学するのが通例だ。そもそも日本企業は、アメリカに比べてキャリアの初期段階で多くの経験を積めるため、恵まれた環境といえる。若いうちに日本でキャリアを積み、その後留学でさらなるステップアップを目指せば、より実りの多い留学生活を過ごすことができるだろう。