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イベントレポート:「視聴覚障害者のための『映画』の在り方を考える」 シンポジウム
概説
シンポジウムは二部構成となり、第一部では映画制作者を代表して山田洋次監督の基調講演が、第二部では視聴覚障害者のためのバリアフリー映画の現状と未来についてディスカッションが、それぞれ行われた。またシンポジウムと並行して、『幸福の黄色いハンカチ』バリアフリー上映会も別会場で実施された。
内容

登壇者

山田洋次/Yoji Yamada

映画監督

大河内 直之/Naoyuki Okochi

東京大学先端科学技術研究センター 特任研究員

松森果林/Karin Matsumori

ユニバーサルデザインコンサルタント

古川 康/Yasushi Furukawa

佐賀県知事

川野浩二/Koji Kawano

NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター 理事/事務局長

山上 徹二郎/Tetsujiro Yamagami

NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター 理事/株式会社シグロ プロデューサー

1.映画監督が語るバリアフリー映画の現状

山田洋次:

私には生まれつき耳の聞こえない親戚がいるため、30年ほど前にバリアフリー映画について興味を持った。1991年に『息子』という映画を作ったが、その映画の登場人物のひとりに、聴覚障害者という設定のヒロインがいた。私はこの映画をその親戚にぜひ観てほしいと思い、各所に相談を持ちかけた。結果、日本語字幕の制作費用を出してくれる会社が見つかり、無事に『息子』をその親戚に見せることができた。それが契機となり、以降の私の映画には必ず日本語字幕を用意するようになった。

かつてはFAX、現在ではメールなど、科学技術の発展によって、聴覚障害者が気軽にコミュニケーションをとれる環境は整ってきた。科学の進歩が人間の幸福に直結するのか、という問題は付きまとうが、障害を持つ人が幸せになれるのなら、技術の発展は本当に素晴らしいものだと思う。

以前に視聴覚障害者の集会に参加したことがあるが、そこで目の見えない人が「実際に映画館へ行き、ほかの観客と一緒に映画を観ることが楽しい」と言っていた。障害のない人にはわからないかもしれないが、観客の笑い声やざわめき、そして鼻をすする音さえもスクリーンを想像させ、映画を一緒に楽しめる要素であるというのだ。

バリアフリー映画は、封切り時から一般の映画館で上映するべきだと考えている。しかし、バリアフリー上映のための字幕付き、または音声ガイド付きフィルムの制作や上映については、政府ないし自治体の支援が極めて少ない。先進諸国と比べて遅れており、現在までのバリアフリー上映は、ボランティアや企業のメセナに頼らなければならないのが現状だ。

映画の制作技術もここ数年で大きく変わり、デジタル化によってフィルムそのものがなくなる日も遠くないだろう。バリアフリーの問題も含めて、私たちは映画の歴史の大きな転換点にいるということを自覚したい。

2.バリアフリー映画が抱える問題とその先にある未来

古川 康:

県行政にはさまざまな分野があるが、私は佐賀県知事として障害福祉に力を入れている。個人的に映画が大好きだということもあり、佐賀県では昨年からバリアフリー映画の映画祭を開催した。2011年は11月に開催するが、そこでは現在制作中のヘッドマウントディスプレイを使った字幕上映も検討中だ。

しかし、まだバリアフリー映画自体の数はとても少ない。そのため、今後は映画制作の際に通常版とバリアフリー版を必ず同時に作るような仕組みはできないだろうか。おそらく、税制的な支援やさまざまな援助が必要となるだろうが、障害の有無に関係なく、みんなが一緒に楽しめる環境作りこそが大切だ。映画のバリアフリー化を特別なことではなく、当たり前のことにしていかなくてはいけないと考えている。 松森果林: 映画業界には現在、バリアフリーとユニバーサルデザインというふたつの問題がある。両者はよく似ているが、バリアフリーは映画の制作後に障害者に向けて字幕や音声ガイドなどの加工をする、そしてユニバーサルデザインは最初からみんなが楽しめるように制作する、という違いがある。

映画のバリアフリー化は封切りから1~2年後に行われることもザラであり、障害者が一般の方に交じって映画を鑑賞できる機会は少ない。私は耳がだんだん聞こえなくなり、それに伴って字幕のない日本映画を観なくなったが、息子と一緒に邦画を観ることが夢だ。映画制作は、将来的にはバリアフリーではなく、ユニバーサルデザインを目指してほしい。社会にはさまざまな人間がおり、その全員が楽しめる環境作りが必要である。私はそのためのアドバイスを、聴覚障害者の立場から今後も行っていきたい。

最近、耳が遠くなってきたなという方が、来場者の中にいるかもしれない。映画のバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化は他人事ではなく、いずれ自分に返ってくるものだということを覚えておいてほしい。

大河内 直之:

デジタル化によりテレビでは字幕放送が浸透してきたが、映画はまだまだ不十分だ。バリアフリー化される作品が一部だったり、それを上映する映画館が限られていたりと、障害を持つ人たちには映画に対する選択肢が少ないのである。バリアフリー化、ユニバーサルデザイン化の拡大によって、その選択肢を増やしていきたい。

視覚障害と聴覚障害を併せ持つ人に向けても、何か尽力できないかと考えている。目が見えず何も聞こえないという人も映画を観たがっているということを、我々は忘れてはならない。とても難しいことだし限界もあるだろうが、そういうニーズも含めて今後は取り組んでいく必要があると考える。

川野浩二:

字幕によるバリアフリー映画は増えているが、音声ガイドについては設備の整った映画館が少なく、字幕に対して音声が一歩遅れている状況だ。設備を整えるには、どうしても費用がかかる。それを負担するのが製作会社なのか、配給会社なのか、劇場なのか、そして観客なのかという問題はある。

しかし、問題を問題として重く考えるだけではなく、前向きに考えることもできるのではないか。例えば、音声ガイド用のチャンネルを増設することで、障害者向けの副音声だけでなく、俳優や声優のコメンタリーなどを流すこともできるだろう。そうすれば、同じ映画を二度見に行く理由ができ、業界の活性化にもつながるのではないだろうか。負担だけにとらわれず、その先にはこんな楽しいこともできるという考えを持って、今後も活動していきたい。

基本情報
事業名
UNIJAPAN Entertainment Forum 2011
会場
六本木ヒルズ49Fオーディトリアム(港区六本木)
開催日
2011/10/28
主催
一般社団法人映画産業団体連合会/一般社団法人日本映画製作者連盟/一般社団法人外国映画輸入配給協会/全国興行生活衛生同業組合連合会/協同組合日本映画製作者協会