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イベントレポート:進化するテレビ国際共同制作最前線 ~「NHKスペシャル」から「大科学実験」まで~
概説
NHKは国際共同製作において質、量共に世界最高水準の実績とノウハウを積み上げており、放送希望国が世界に広がるなど、国際共同製作の可能性を押し広げている。企画開発、パートナー選びなど、コンテンツの海外展開における国際共同製作の役割と手法と"世界の今"を、中東との共同製作番組「大科学実験」を例にして、担当者たちが語った。
内容

登壇者

堀江さゆみ/Sayumi Horie

NHK編成局 ソフト開発センター国際共同制作 チーフプロデューサー

森 美樹/Miki Mori

NHKエデュケーショナル 教育部 シニアプロデューサー

1.NHKにおける国際共同製作についての考え方

堀江さゆみ:

 放送局である以上、何よりもキラーコンテンツが必要だ。NHKが存在してよかった、これなら受信料を払ってもいい、と言っていただけるようなコンテンツをそろえることが、NHKにおけるサービスの基本である。しかし、限られた人材、物資、費用の中で、どのようにして継続的にキラーコンテンツを産み出すかは頭の痛い問題だ。

 映画が世界に通用するグローバルな方向を目指して進んでいるのに対し、テレビはニュースなどの国内向けのローカルな要素が欠かせないメディアである。そのため、ローカルサービスを基本にしながらも国際展開するためのニーズを調査し、現在の私たちの労力や予算に少しプラス要素を加えることで、世界を視野に入れた番組を製作できるシステムを構築できないかと考えた。その手法のひとつが、国際共同製作である。

 NHKでは、世界を視野に入れたキラーコンテンツを効率的に製作するひとつの方法として、国際共同製作の研究を20年前から行ってきた。細々とでも国際展開を続けることにより、世界が求めているものや世界に出ていくための手法を学ぶことができるため、どんなに資金が少ない時でも国際共同製作をやめるという選択はなかった。ドキュメンタリーや教育番組は資金の回収が難しいが、継続して行うことが何よりも大切だと考えている。

2.国際共同製作や国際展開に向いているジャンルとは

堀江さゆみ:

 ドキュメンタリーやドラマ、バラエティなど、すべてのジャンルで国際共同製作は可能だし、NHKでは実際にそれらを行ってきた。しかし、ドラマのようにストーリー性の高い番組や歴史を扱ったような番組になると、国によっては受け入れ難いものもあるのが現実である。そのため、科学番組や自然番組、そして最先端の技術を披露するようなジャンルは、国際共同製作が実現する可能性が高い。

 NHKでは年間約20タイトルの国際共同製作を行っているが、その半分が大型のドキュメンタリーである。NHKは放送技術研究所を持ち、そこで実現した技術をすぐに応用し、番組を制作している。技術者と放送の連携は、世界でもあまり例のないタッグだ。そういった"世界初"の誰も見たことがない映像を提供できるというのは、国際共同製作を持ちかけるにあたっての大きなメリットである。

3.国際共同製作のリスクとメリット

堀江さゆみ:

 国内での共同製作は写真や映像などの素材を提供し、あとは制作会社に任せるといったものが多い。しかし、国際共同製作はまだ信頼関係が構築されていない段階からスタートするため、進行ごとの連絡や途中経過の提出などを定期的に行わなければならず、国内での共同製作と比較して2~3倍の手間がかかるのが実態だ。

 正確な金額は申し上げられないが、既存の教育番組と比較すると「大科学実験」の制作費は約2倍。結果だけを見ると世界各国で放映され、DVDも発売されて儲かっている印象があるが、手間と時間、そして費用を考えると、NHKではなく独立した制作会社が行うビジネスとしては問題点が多い。 しかし、それでも世界を相手に国際共同製作を続けてきたことにより、世界的な認知度は高まってきた。NHKが国際共同製作に力を入れているということが知られるようになったことで、諸外国と話を進めやすい状況は生まれている。確かにビジネス的には難しいが、時間をかけてブランドを世界に浸透させつつ、国内サービスへ還元していきたい。

 「大科学実験」は世界中から放送のオファーがある。展開しづらい教育番組が世界にそこまで認められたことは、ビジネス的なメリットは薄くても成功と言ってよいだろう。 国際共同製作を積極的に行うことを、他国のテリトリーを犯すことだと恐れている人がいるかもしれない。しかし、そこに日本が介入することを納得させるだけの理由があればよいのだ。世界が注目していることを取り上げる、最先端のCGで表現するなど、グローバルなものをつくるにあたって、日本人であることを意識しすぎる必要はない。

4.国際共同製作番組「大科学実験」誕生の経緯

森 美樹:

 教育番組「大科学実験」は、日本のNHKとNHKエデュケーショナル、そしてカタールのアル・ジャジーラ子ども放送局という、2国の3社による国際共同製作で行われた。カタールは、世界において自分たちが教育のハブになるという高い目的意識を持っている。その方針に基づいて6年前に開局されたのがアル・ジャジーラ子ども放送局であり、開局当時からNHKは番組を提供してきた。関係が続いてきた中で一緒に番組をつくりたいという想いを持つようになり、「大科学実験」の共同製作が実現したのである。

 日本とカタール、両国での放送を目的としているのはもちろんだが、国際的な展開も視野に入れるというコンセプトで製作はスタートした。そのため、私たちはまず英語版の番組を作り、それをもとに日本では日本語版を、カタールではアラビア語版を作るという手法を取っている。ここで大切なのが、英語版を先に作るからといってグローバルスタンダードを目指すのではなく、日本とカタールの文化を尊重したユニバーサルなコンテンツを目指すという点だ。そのうえで世界に通用する番組を製作するというのが、「大科学実験」の目標だった。

5.グローバルな演出と既存のイメージの払拭

森 美樹:

 「大科学実験」の制作は日本が主体だったが、日本という土地や日本人を前面に出さないよう、演出には気を配った。出演者は全身を覆う黄色やピンクの衣装を身に着けていたり、帽子やサングラスをかけたりすることで肌や髪の色をあまり見せないようにし、人種や撮影場所を感じさせないようにした。また、人格の露出も抑えるため、例え英語が流暢であってもリポーターは起用しなかった。

 NHKは公共放送局であるがゆえに、番組は面白いが堅苦しい、映像が地味といった印象が付きまとう。そこで「大科学実験」では、小学校や中学校の教科書に載っているような普通の実験をあえて巨大な規模で行うことにした。ある意味バカバカしい取り組みではあるが、そこが既存のNHKの番組とは一線を画し、国内のみならず世界で好評を博している。日本人は地味な教育番組を見慣れているが、世界では到底受け入れられない。そこで切り札となったのが、NHKの技研による最新技術を使ったキャッチーな映像である。

 人種や土地を感じさせない演出、エンタテインメント性の高い構成と最先端の映像。それらをプロモーションに長けたCM会社がトータルブランディングすることで、「大科学実験」は日本のみならず世界で認められ、製作後に各国から購入のオファーが相次いでいる。これは教育番組としては異例のことだ。多大なリスクや問題点を考慮し、「大科学実験」は半年での放送を目的に26本を作った。しかし、世界各国からやはり1年間放送できる52本を望む声が高まり、現在は「大科学実験」のセカンドシーズンを企画中である。

基本情報
事業名
UNIJAPAN Entertainment Forum 2011
会場
六本木ヒルズ49Fオーディトリアム(港区六本木)
開催日
2011/10/27
主催
公益財団法人ユニジャパン