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イベントレポート:東アジアコンテンツプレゼンテーション2011
概説
 昨年に引き続き、東アジア各国の映画関連機関が集結したこのプレゼンテーションセッションでは、公益財団法人ユニジャパン事務局長の西村隆による日本映画産業の現状報告後、「国際共同製作支援」をテーマに各国の代表者たちが映画製作の現状や今後の対応について発表した。
内容

登壇者

ソン・ナクウォン/Song Nakwon

韓国映画振興委員会(KOFIC) コミッショナー(韓国)

バララマン・ナラヤナサミー/Balaraman Narayanasamy

Planning & Research, National Film Development Corporation Malaysia (FINAS) Ministry of Information, Communication and Culture ディレクター(マレーシア)

サルジ・ラクエスタ/Sarge Lacuesta

Film Development Council of the Philippines コンサルタント(フィリピン)

侯志欽/Gee-Chin Hou

国立政治大学ラジオテレビ学部 兼任講師(台湾)

スラザック・サンピツカサリー/Surasak Sunpituksaree

The 5th Movie Rating Commission of Thailand, Department of Culture Promotion, Ministry of Culture ディレクター&セクレタリー(タイ)

ヨアヒム・ウン/Joachim Ng

Financing & International Co-operation, Media Development Authority ディレクター(シンガポール)

モデレーター

西村 隆/Takashi Nishimura

公益財団法人ユニジャパン 事務局長

1.国際的な映画が集う"目的地"を目指して

バララマン・ナラヤナサミー:

 マレーシアの映画産業はとても好調で、昨年の興行収入は50億ドルを超えた。国内で製作された映画は昨年が29本、今年は現在32本で、最終的に40本を超す予定である。入場者数も年々増加しており、4年前はたった76しかなかった映画館が現在では103と、こちらも増加傾向にある。

 マレーシア政府は映画産業の発展に積極的な姿勢を見せており、1981年に設立された私たちの組織は政府から100%の支援を受けている。もちろん、映画産業の発展が設立の大きな目的だが、マレーシアの国家的なアイデンティティーを映画によって国際社会に紹介するという目的もある。

 映画産業に対してマレーシア政府が行った最大の投資は、マレーシア南部に位置するジョホール州の広大な土地に、ふたつのテレビ局と大規模な撮影スタジオを設立したことだ。マレーシア政府はここを国際的な映画の集積所にしたいと考え、2003年から投資プロジェクトを行っている。 2005年には政府から国際的な映画政策が導入され、その一環として国際的に著名な放送局との連携が行われた。この目的は、マレーシア発のドキュメンタリーを海外市場に進出させることである。マレーシアには数多くの歴史や物語があるが、それが国際社会に向けて十分に発信されているとは思えない。ドキュメンタリーフィルムは商業的な価値は乏しいが、国際的なマーケットに乗せやすいという特徴がある。

 また、世界各国で行われていることだと思うが、マレーシアでは映画文化の育成や映像作品を未来の世代に残すため、動画を集めたフィルム・アーカイブの作成を行っている。 映画製作には資金調達が欠かせない。そのため、マレーシアでは多種多様なファンドを用意し、映画産業の支援を行っている。その中には、ドキュメンタリーやアニメ作品の製作に特化したファンドも存在する。かつてはマレーシアで製作された映画の入場料に娯楽税を導入し、そこから次の映画製作の資金提供を行っていたこともある。

 さらに、人材育成や技能開発も重要だ。脚本の書き方やディレクターとしての技法といったさまざまな分野でのワークショップを、映画産業で働く人々に対して開催している。海外から著名な人物を招いたマスタークラスも開設しており、海外の優れた技術の習得にも意欲的に取り組んでいる。

2.大型プロジェクトで行き詰った現状を打破

ソン・ナクウォン:

 2010年に回復の兆しを見せた韓国の映画産業は、世界第11位の規模に成長した。昨年は152本もの映画が製作され、国内の映画シェアは46.5%、観客動員数は約1億4,000万人、映画館は約2,000館が存在する。韓国の映画産業を支えるのは、やはり優秀なマンパワーだ。監督をはじめ、特殊効果の専門家や視覚効果の専門家など、素晴らしい人材が豊富である。この10年間では、『オールド・ボーイ』や『サマリア』『シークレット・サンシャイン』といった多くの韓国映画が、カンヌ国際映画祭やベルリン国際映画祭などで受賞している。

 我々の国際共同製作支援システムで最も規模が大きいのは、グローバル・コンテンツ・ファンドである。これは、年間2,000億ウォン(約20億ドル)の資本を誇る大型プロジェクトだ。資本金の内訳は、韓国政府が800ウォンを出資し、韓国国内の民間企業と海外の出資金が1,200ウォンとなっている。

 このファンドが設立された背景には、韓国映画における資本とマーケットに限界が見えてきたことが挙げられる。例えば、2010年の韓国映画の総製作費が約2億8,000万ドルなのに対し、アメリカの『アバター』はそれ一本で約4億8,000万ドルと、その差は歴然である。そのような現状と限界を打破し、韓国で大規模なプロジェクトを行いたいというねらいがある。 グローバル・コンテンツ・ファンドの投資対象には、韓国の企業が参加して製作する海外プロジェクトか、韓国と海外の製作社が共同で行うコープロダクションか、といったいくつかの審査がある。

 グローバル・コンテンツ・ファンド以外では、国際共同製作支援のインセンティブにも力を入れている。年間予算は20億ウォンで、1作品の限度額は5億ウォン。今年は日本と中国の映画が国際共同インセンティブを受け、映画を製作している。またロケーション・インセンティブでは、2012夏に公開予定の高橋伴明監督の映画『道~白磁の人~』が支援を受け、ソウルなどで撮影を行った。

3. フィリピン映画の現状と課題

サルジ・ラクエスタ:

 ハリウッド映画の上映によって興行収入自体は一定を保っているが、フィリピン映画の製作本数は1997年の220本をピークに年々減少。2010年には主要な長編映画は、わずか25本になってしまった。この理由としては、インターネットの台頭が挙げられる。映画を簡単に、そして安くダウンロードして自宅で鑑賞できる環境が整ったことで、客足が伸び悩んでいるのだ。ダウンロードされる映画の多くはハリウッド映画である。フィリピン映画は配信やDVDなどのパッケージ販売がとても安いため、見る人が少なく、収入も少ないフィリピン映画を製作しても無駄だ、という風潮になってしまった。

 しかし技術の革新は、自由度の高い低予算の短編映画を生む傾向もある。スタジオ製作の作品が減少している中で、インディーズ系やアート系のデジタルフィルムは大幅に増加しており、実験的かつ革新的な作品が多くの観客に届けられることになった。

 かつてフィリピンは、映画撮影における絶好のロケ地としても注目されていた。フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』を筆頭に、オリバー・ストーン監督の『プラトーン』など、数々の名作がフィリピンで撮影された。今年はハリウッドの大作映画がフィリピンをロケ地に選び、1月から撮影を開始している。しかし、フィリピンと同様に熱帯、南国、ジャングルといったイメージを持つ近隣諸国との差別化が不十分なのも事実だ。海外へのロケの誘致や共同製作における優遇政策の推進が、今後の課題だと考えている。

4.回復の兆しを見せる台湾映画

侯志欽:

 台湾が優秀な監督を数多く輩出したニューウェーブ時代と呼ばれる1980年代以降、台湾の映画市場は1985年から2005年にかけて、衰退の一途を辿っていった。テレビ放送や劇場公開されている映画はハリウッドからの輸入作品がメインで、国内の作品は全体の約10%と少ない。台湾映画の製作本数は徐々に増え、映画市場は回復の兆しを見せているのだが、まだまだこれからといった状況だ。

 台湾の人口は約2,300万人で、テレビの視聴者は約530万人。そのうち、ケーブルテレビの視聴者は約64%を占めている。32の映画専門チャンネルが用意され、毎年300本もの映画がテレビで放送されている。映画を映画館ではなくテレビで視聴する層が増えたのも、台湾において興行収入が低迷していた理由のひとつだろう。

 しかし、ここ数年で台湾の映画史上は変化を見せつつある。2008年以降、台湾政府の映画製作支援の促進や、過去に映画業界で成功した台湾の先達たちによる投資促進会の設立を受け、映画製作の環境が整ってきたのだ。優れた脚本には政府から賞金が出たり、製作費用も補助金が受けられたりするようになった。また、大手プロダクションとの交流会や、投資家とのマッチングの手助けも積極的に行われている。

 台湾映画再生の狼煙となったのは、台湾の夜市を舞台にしたコメディ映画『ナイトマーケットヒーロー』である。そして、今回の東京国際映画祭にも出展された青春ラブストーリー『あの頃、君を追いかけた』といった、台湾の社会や生活のひとコマを描写した物語が台湾市民の琴線に触れ、大きな収益を挙げている。良質な台湾映画が増えたことにより、映画館離れを起こしていた人々も徐々に劇場へと戻ってきてくれている。

 2010年からは、共同製作支援や誘致にも力を入れている。良い脚本や作品があれば、台湾を挙げて協力する準備がある。台湾は世界最高の撮影機材などを用意することはできないが、心を込めた最善の撮影環境の提供に力を尽くしている。

5.タイ映画市場の回復と大洪水の影響

スラザック・サンピツカサリー:

 2010年におけるタイの映画公開数は前年の232本を下回り、211本となった。そのうち、タイ製作の作品は59本、海外製作の作品は152本である。総公開数自体は若干減少したものの、タイ製作作品は数を伸ばし、その割合は約27%と前年の約21%を上回った。 興行収入は前年から約3億バーツの上昇を見せ、約36億バーツとなった。アジア諸国と比べるとまだまだ定水位だが、2007年から下降の一途を辿っていたタイの映画市場にようやくストップがかかった状況だ。ただし、スクリーン数は前年と変わらず551。デジタルスクリーン化も停滞している。

 タイでは2年前に新政府が発足され、現在は文化省、観光省、そして商務省がそれぞれ映画産業の支援を行っている。文化省は映画を通じてタイ文化を促進。観光省はロケーションの誘致。商務省はビジネスの促進を受け持ち、資金も計上していたのだが、今年は大洪水の影響により、それらの資金を復興に回す可能性が高くなった。

 今年度の実行は難しくなってしまったが、支援政策の予定としては、新たな助成金の設立、タイ東部のパタヤ市をユネスコの映画都市として促進、といったことなどが挙げられる。また、タイには映画撮影における税的優遇策が存在しないため、海外の映画製作会社が撮影を敬遠する傾向にあることが問題視されていたが、今年は優遇策の検討が観光省より発表された。

6.グローバルハブとしての地位を確立したシンガポール

ヨアヒム・ウン:

 シンガポールの人口は約500万人と少なく、アジア諸国と比較すると必然的に国内の市場規模は小さい。そのうち約200万人が実際に映画館へ足を運んでいるが、上映されているのはハリウッド映画ばかりだ。シンガポール国民に愛される映画を国内で製作し、それを流通ネットワークに乗せて国民に見てもらえる環境づくりが今後の課題となっている。

 シンガポール政府は、映画の製作支援、マーケティング支援、開発支援、そして人材育成支援を目的とした新たな制度を導入した。支援対象はシンガポールの会社だけにとどまらず、シンガポールに拠点を置く会社も補助金を受けられる対象となる。私の組織は製作支援に力を入れているが、製作の前段階となる脚本やコンセプトづくりの段階から支援を行うことができれば、より良い作品をもっと産み出せるのではないかと考えている。

 シンガポールは市場規模が小さいため、コンテンツ産業やメディア産業は、最初から海外を視野に入れていなければならない。シンガポールが観光だけでなく金融や物流においてアジアで重要な位置を占めるようになったのは、グローバルなハブ機能を提供するという国家戦略の賜物だった。

 例えば、ナショナルジオグラフィックやディスカバリー・コミュニケーションズ、BBCといった国際的な放送局が、シンガポールにインフラストラクチャーを構えている。5、6年前にはルーカスフィルムが、アニメビジネスの拠点をシンガポールに移した。また、世界における出版社トップ5のうち4つの会社が、シンガポールをアジア地域のホームとして使用している。

 2009年には、デジタルメディア産業の関連施設を集積させた複合メディアパーク「メディアポリス」の建設を開始した。ルーカスフィルムの拠点はここにあり、ほかにも国際的に有名な会社の多くが移設を検討中である。2012年8月に完成する見通しで、完成のあかつきには映画業界の勢いも増すと考えている。

基本情報
事業名
UNIJAPAN Entertainment Forum 2011
会場
六本木ヒルズ40Fセミナースペース(港区六本木)
開催日
2011/10/24
主催
公益財団法人ユニジャパン