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イベントレポート:映画ビジネスの新潮流~『地ムービー』プロジェクト~
概説
 地域という視点から映画を考え、それをビジネスにつなげていく「地ムービー」。映画が地域を変え、地域が映画を変えるという発想のもと、Win-Winの関係を築くのが地ムービープロジェクトの課題である。世界でも例を見ない、新しい映画ビジネスについて語られた。
内容

登壇者

谷國大輔/Daisuke Tanikuni

ジムービー 代表取締役

瀬木直貴/Naoki Segi

映画監督

三輪由美子/Yumiko Miwa 映画プロデューサー

1.地域映画が持つさまざまな可能性

瀬木直貴:

 私が監督した『坂の上のマリア』という作品を例に、地域との関わりについての経験談を紹介する。この作品の舞台は福岡県北九州市の八幡東区というところで、都市部でありながら標高500メートルを超える山に抱かれ、長い階段と細い路地のある町だ。私はここで実際に暮らす中で、いろいろと見えてきたことがあった。

 その町で育ったある女性から、自身の高校時代の話を聞くことがあった。彼女が家に帰る途中、長い階段の前をひとりのおばあさんが歩いていた。もし追い抜いたら、おばあさんが悲しむのではないかと考えたそうだ。恵まれた自然と風情のある環境で育ってきたからこそ、そのような優しい気持ちになれたのだろう。環境的には厳しいかもしれないが、人間の精神的な成長には良いところだという印象を受けた。こうした発見がこの映画の随所に反映されているが、芸術の発想の種は、自分のそれまでの既成概念が覆されるところに埋まっているのではないだろうか。

 映画によって生まれた運動もあった。坂道の周りを花でいっぱいにしようという「花いっぱい運動」だ。独居の老人が多い地域ということもあり、映画のスタッフから民生委員や地域の郵便局、警察までをも巻き込んだ、「声かけ運動」も始まった。こうした運動は今でも続いており、まさに地域作りと映画作りが一体となった経験だった。

 2004年に公開された『千年火』は、福岡県糟屋郡新宮町が舞台だ。この町は福岡市のベッドタウンで、人口のおよそ半分が新住民である。当時の町長から、新旧住民が一体となって盛り上がれる祭りはないかということで、映画化の相談があった。町の歴史を調べ、全国の祭りを調べ、この町で継承していけるものということで、「火祭り」を映画の中で造形した。当初の狙い通り、その祭りはNPO主催で今も受け継がれている。伝統文化につながるものをスタートさせたり、それを守っていったりすることにも、映画が貢献できるのだと感じた。

 地域で撮った映画は全国でなかなか公開されない状況だが、『千年火』はベルリン国際映画祭をはじめ、世界23か国の映画祭から招待され、海外でも高い評価を得た。各メディアにも取り上げられ、宣伝効果があったと町からも感謝された。

三輪由美子:

 長い間、映画制作の現場で働いていたが、機会があって東京国際映画祭を手伝うことになり、日本映画で地域が主体になった作品だけをセレクションする作業を行った。その際に考えた基準項目がいくつかある。

 舞台となる地域の風景が作品にたくさん入っているかという「地域撮影度」。地域で資金を集め、地域でほぼリクープしているかという「地域経済度」。消えゆく伝統や祭りといった題材がふんだんに入っているかという「地域文化度」。その地域の人々がエキストラになれる作品かどうかという「地域参加度」。このような観点で作品を選んだが、実際に地域と映画を結び付けて考える際、この基準は参考になるだろう。

 2008年に沖縄県の離島を舞台にした『群青 愛が沈んだ海の色』で、アソシエイトプロデューサーを担当した。この時、ふたつのことを行おうと決めた。ひとつはロケ地マップを作ること、もうひとつは沖縄の企業のものだけを商品化することだった。ロケ地マップは長期にわたって使われるものなので、写真の権利が取れないと聞いていた。目標として、俳優の写真を永続的に使う許可を取ろうと動いたら、結果、写真満載のロケ地マップを作ることができた。商品化については、先にネックレスをデザインして俳優に使ってもらった。企業は映画に対してお金を出してくれない傾向があったので、「きれいな海を守ろうキャンペーン」を始めて、協賛金を集めた。

谷國大輔:

 地ムービープロジェクトの英語名は「Regional Cinema Project」で、2010年10月からスタートしている。設立の背景は、地域発の映画作りが目立ってきていることにあった。人口や公共投資が減って雇用も減少しているため、必然的に行政の財政も不足し、地方での大規模イベントや共有体験がなくなってきている。しかし、グローバル化や高度通信情報化が急激に進む中、地域振興の手段として、映画やアニメなどを生かすことが注目され始めていたのだ。

 映画と地域のつながりは、その土地がロケ地として採用されることも魅力のひとつだが、ほかにも映画の設定上の舞台や題材として地域の出来事などが扱われることや、地域にゆかりのある人物がスタッフやキャストになるというようなこともある。また、作品から派生するものとして、映画の記念モニュメントを作ったり、先行上映やDVD関連グッズの販売を行ったり、あるいは、ロケ地観光のような形でも考えられる。

 地域側から考えると、経済的な面ではロケによる直接的な経済効果をはじめ、観光やタイアップした特産品の販売、マスメディアや映画上映などの情報発信による宣伝効果、地域外からの資金獲得、税収増などがある。具体的な数字を示すと、日本におけるロケの市場規模の試算は、だいたい3,500億円程であろうと言われている。つまり、かつての建設投資や博覧会のようなイベント投資と同じように、ロケは地域の商業やサービス業、また地場産業にも魅力的な需要を生み出している。ほかには、映画は地域のアーカイブということで、建設投資などに比べて維持管理費が安価になってくる。これも経済的に有効なポイントだろう。

 社会文化的な面からは、俳優に会えることで楽しみができたり、改めて地域の資源を見つけたり、歴史や文化の継承につながったり、地域への愛着が増すなど、地域に与える影響は大きい。

2.「地域×映画=地ムービー」のメリット・デメリット

瀬木直貴:

 地域映画というカテゴリに分類されてしまうと、なかなか全国で配給できない。しかし、地域の人々の本音はやはり地域映画と言ってほしいので、ここにジレンマがある。解決策のひとつはプロモーションだろう。全国でどれだけPrint & Advertisingをかけても、結果としてなかなか表れないことも多いが、見えるところは押さえていくことが重要だ。例えば、プロモーションを兼ねて、前売り券を映画関係者が売るという方法はどうであろうか。東京で公開する時はほとんどないことだが、地域に行くと監督や俳優が自ら前売り券を販売することがある。『千年火』が世界で公開されたように、地域映画だからといって世界に通用しないわけではなく、人気俳優が出ていなくても、映画的な面白さがある限りは評価され、世界へ出て行く可能性を持っている。

三輪由美子:

 東京の映画製作委員会は、地域映画にしたがらない傾向がある。しかし、作品に関心がある人が確実にいるのなら、その地域にターゲットを絞って集中的にプロモーションすることは有効だ。製作委員会としてリクープ率をどう上げていくか議論になった時は、その点を主張して説明している。この構造がシステムとして見えれば、製作委員会としても取り入れる形につなげられるのではないか。

 パブリシティの予算がない場合、最も効果的な宣伝は前売り券を売ることで、何らかの形で映画に関わった人が売るのは、確実なプロモーションなのではないか。また、それが可能なのは地域だと考えている。

谷國大輔:

 地域が主体となって製作する映画が目立ってきているが、地域振興の手段でいうとまだまだ弱い部分がある。地域振興とは、あくまでも地域が本当の意味で継続的に発展していくことであるが、実は、ロケ地の観光振興は作品の力によるところが大きく、一過性になりがちなところもある。継続的につなげていくためには、地域が戦略をきちんと練っていかなければならない。

 映画が地域を変え、地域が映画を変えるといった、映画と地域のWin-Winの関係を築くことが、地ムービープロジェクトの根本的な課題となっている。映画の成立が難しくなっている中で、地域の支援・協力により、成立させてヒットさせるような仕組みが必要だろう。映画や地域にとっての堅実なビジネスとして考えれば、エリアマーケティングのような形で、それぞれの地域でどのような興行をしていくかを考える必要があるし、身の丈に合った映画ビジネスを展開することが重要にもなってくる。

 「地域×映画=地ムービー」は、新しい映画の楽しみ方だと考えている。どの映画も何らかの形で地域に関わっているので、すべての映画はどこかの町の地ムービーといえるだろう。 ご当地映画やふるさと映画というように地域度が強くなると、ひとつのジャンルのように捉えられてしまうかもしれないが、地域発信型は単なる切り口に過ぎないだろう。地ムービーは、根本的には映画とその地域との接点をうまく生かしてこうという考え方であり、地ムービーとして地域のビジネス支援を行ったり、映画祭などのイベントに参加したり、あるいはグッズなどの商品開発といったような、さまざまなセールスプロモーションに役立てていきたいと考えている。

 しかし、第三者が提案したものは、地域の人々、あるいは現場に入った側にとって、立ち入り禁止の場所に人が出入りしてしまうといった不都合な場面も多いため、気を付けなければならない。そうした問題をなくすためには、その地域に関わる人たちの意向にきちんと沿う形での商品開発や宣伝を行っていく必要がある。映画に協力した人々にもメリットがあるようなビジネスのスキームを作っていくことが、地ムービープロジェクトのひとつの重要な課題だと考えている。

基本情報
事業名
UNIJAPAN Entertainment Forum
会場
政策研究大学院大学 研究会室4A(東京都港区六本木)
開催日
2010/10/27(水) 17:30 - 19:00
主催
経済産業省/公益財団法人ユニジャパン