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イベントレポート:プロデューサーを志す諸君へ
概説
 映画『卒業』のプロデューサーであり、現在は南カリフォルニア大学のプロデューサーコースの学科長としてプロデューサー教育の世界的第一人者であるローレンス・ターマン氏が、プロデューサーに不可欠な要素やプロデューサーの育成方法について語った。
内容

登壇者

ローレンス・ターマン/Lawrence Turman

南カリフォルニア大学 映画学部 プロデューサーコース 学科長

1.プロデューサーを目指す若者にアドバイスしていることとは?

 私は南カリフォルニア大学で、「ピーター・スターク・プロデューシングプログラム」というコースを受け持っている。プロデューサーはクリエーティブな仕事であるため、授業では個性を尊重しており、商業的に成功するアイデアを出せる人でなくてはならないとも教えている。このコースのミッションは、学生にエンタテインメントビジネスのあらゆる側面を体験させ、クリエーティブな目標を自分の価値観と合わせて達成させることである。

 このコースの定員は25人だが、毎年400人の申し込みがある。希望者がどれだけ真剣にプロデューサーになりたいと思っているか、私はその志を見ている。個性として、ほかの人とは違ったユニークさを求めているので、必ずしも成績が良い学生を選ぶわけではない。その人が内面に何を持っているのかということを重視して選んでいる。40年以上前に私がプロデュースした『卒業』は、今なお支持され、生き続けている。もちろん、商業的な成功も収めた。このふたつの側面を、我々は目指しているのである。まずは芸術を求め、そこから生まれる商業的な成功についても求めていく。

 「教える」だけなら、何でも教えられるものだ。例えば、医科大学では外科医になることを教えられるし、すし屋なら板前になることを教えられる。だが、どのようなジャンルでも、いちばん大事になる野心やセンス、あるいは判断力は、残念ながら教えることができない。それらを持っているかどうかで、素晴らしい俳優になるのか、あるいは平凡な俳優で終わるのかが分けられる。特別な輝きを持つためにどうすべきかについては、誰も教えることなどできない。

 ピーター・スターク・プロデューシングプログラムには「プロデューシング」という言葉が付いているが、ここに来る学生はプロデューサーとはどのようなことを行うのか、完璧に理解している者はいないだろう。むろん、学生なのだから当たり前である。私は学生に「このプログラムをきっかけに自分たちがしたいことを見つけてほしい。ショービジネス、あるいは映画の世界で何をしたいかを見つけてほしい」と伝えている。それから、「自分をよく見つめなさい」という哲学的なアドバイスをしている。自分がどのようなストーリーに関心を持っているのか、どのような感情に関心を持つのか、他人に何を伝えたいと思っているのか。自分自身に秘められたものを深く掘り下げることが、映画をはじめとしたエンタテインメント業界全般で活躍できる道筋となるのだ。

 カリキュラムでは、生徒全員にスクリプトを書いてもらっている。また、全員が監督の勉強も行う。2年間が終わると、25人のうち5人くらいは監督になりたい、ほかの5人は脚本家になりたい、また何人かはスタジオの経営をしたい、あるいはエージェントになりたいという。私はその結果を喜んでいる。つまり、彼らは自ら何がしたいかを発見したのだ。

2.プロデューサーに欠かせない素質は?

 プロデューサーになりたいのであれば、一生、映画を売り続ける意思が必要だ。私がプロデューサーの仕事を続けたのは、ストーリーに恋してしまったからである。それから、映画ビジネスの環境や雰囲気が好きだったという理由もある。映画ビジネスは華やかで魅力的な職種であるし、そうした側面を見てあこがれを持ち、自分も同じようになりたいと思うのであろう。しかし、大学で学んだからといって必ずしも映画業界に入れるわけではない。大学での学問を通じて映画全般の知識を身に付けることも大切だが、その前提として、この世界で成功するという野心が欠かせない。私自身もそうだし、周囲のプロデューサーや脚本家など、映画に携わる者は、皆「この作品を世に出すのだ」という強い気持ちを持っている。もちろん商業的に成功するためには、作品そのもののクオリティの高さも必要ではある。しかし、野心がなくては何も始まらない。

 映画ビジネスの中でも特にプロデューシングは、面白い仕事である。クリエーティブとビジネスという、一見すると相反するものを両立させ、芸術的にも商業的にも成功に導いていく。製作における全責任を負うのだから、大きなプレッシャーはあるし、覚悟を決めなくてはならない。しかし、作りたい、成功させたいという思いがあれば、はねのけられるものだ。

3.クリエーティブとビジネスの両面で成功するための秘訣は?

 先にも述べたように、プロデューシングは創造力も必要だし、ビジネスのスキルも欠かせない。そして、何よりも重要なのは情熱である。本当の意味での情熱がなければ、1年で諦めてしまうかもしれない。しかし、情熱さえあれば、他者から拒絶されても持ちこたえられるだろう。

 『卒業』を例に取ると、通常は監督に作品を売り込むものだが、私はまず資金力のあるインディペンデントへ売り込みにいった。売り込みが苦手だったとしても、トレーニングを積んで、相手を説得できるようにならなければいけない。たったの5~10分程度しか時間をもらえなかったとしても、自分を魅力的に、賢そうに見せて、見事に売り切らなくてはならないのだ。それには強い情熱、そして相手を説得できる力を身に付けることが重要である。10人、20人にノーといわれるかもしれない。それでも諦めずに信念を持っていれば、やり遂げられるものだ。

 「自分の本能を信じなさい」、これが私からアドバイスできることだ。映画に資金を出してくれそうなところがあったら、10社でも20社でも門をたたきなさい。全部にノーといわれても、何とかイエスといわせられないかと、もう一度考えてほしい。断られても、本気でその作品を作りたいのであれば、自分が悪いのではなく、相手に見る目がないのだと思うほどのエゴがあってもいいほどである。もしもスターが出演すれば資金を出してくれるということであれば、スターにもアタックすべきだ。『卒業』の場合は何年も掛かり、とても小さな企業ではあったが、最後には出会えた。そして、大きな成功へとつながったのだ。

4.制作スタッフを決定する際のポイントは?

 プロデューサーとして、スタッフをどう見極めて引き入れていくのか。例えば、私には大好きな監督がいて、あるプロジェクトで監督が必要になったとする。彼が手掛けるのはアクションものであり、私が考えているのはラブストーリーであった。そういった場合、彼は優れた人材だが、あまり適任ではないかもしれないと考える必要があるだろう。実際に自分が望んでいるものが何かを、しっかり見極めることが大切である。 時には、見極めを間違ってしまうこともあるだろう。そのミスによって、大きな犠牲を払わなければいけないかもしれない。私は成功と同じ数だけ失敗もしてきたが、失敗するたびに、自分をしっかりと見つめ直してきた。自分は何を求めているのか、このストーリーではどういった人材が必要なのか、それらをきちんと定義し直してきたのだ。

 もしも、これから取りかかろうとしているプロジェクトがあるのならば、監督や脚本家といった人材を見つけるよりも先に、プロデューサーとして自分はどのような作品を作りたいのかという軸を固めてもらいたい。それが成功につながるのだ。 その上で、自分のテイストと合う人材を探していく。テイストが合うとは、どういうことだろうか? それは難しいことではない。純粋に、自分とスタッフの作りたい映画像が同じであるということだ。

 実際、私がある作品を作る時、それまで一緒に仕事をしたことがなかった人物に監督をお願いしたいと考えた。彼との初めてのミーティングで最初に聞かれたことは、「どのような映画が好きか?」だった。それに対する私の答えから、自分とセンスが合うと判断したのだろう。無事に監督を引き受けてもらえることができた。例え、作ろうとしていた作品の脚本が好きだったとしても、プロデューサーである私とテイストが異なっていれば、一緒に働こうとは思ってもらえなかったはずだ。 監督だけではなく、映画製作には大勢のスタッフが関わる。彼らのモチベーションを上げ、牽引することもプロデューサーの重要な役割である。誰とでもうまくやっていけるといったコミュニケーション能力だけで、彼らをまとめられるものではない。繰り返すが、「この作品を作りたい」という情熱、そしてそれを形にしてくれる共通の意識を持ち続けることが大切だ。

5.最新の映像技術によって映画はどのように変化したか?

 ここのところ、3Dのような技術やスペシャルエフェクトを使った映画が主流になってきている。アメリカの大きな製作会社には特にこの傾向が見られるが、あらためて映画製作の歴史を振り返ってみよう。

 どこの国でも基本的にはそうなのだが、アメリカでも同じように、製作会社は国内の観客に見せるための映画を作ってきた。しかし、追加的な売上を得るために、海外にも輸出。やがて、収入源としては国外市場の方が大きくなり、大手の製作会社は初めから輸出を視野に入れて作るようになった。

 ただし、輸出を前提とした映画作りは難しいものである。例えば、ラブストーリーでは、登場人物の気持ちの流れを汲まなければならない。こうした作品では、主にセリフから登場人物の気持ちの移り変わりを観客が理解するわけだが、ベルリン、東京、リオデジャネイロの観客が同じ共通意識のもとで進むかといえば、決してそうではないことは簡単に分かるであろう。 こうした背景もあり、世界中にいる観客に対してストーリーそのものより画、つまりは見た目のインパクトを与えるため、3Dなどの技術を多用した作品が増えた。実際に、最新技術をふんだんに取り入れた作品は海外市場で大きな売り上げを見せている。しかし個人的には、ストーリーではなく、映像技術に頼らなければいけないほど、アメリカ映画の質そのものが落ちていると考えている。そうした技術を使わなくても、海外市場でヒットした映画は過去にあるのだから。

 最新の映像技術を駆使すれば、どのようなシーンでも映像化できるし、こうした技術は、今や制作において欠かせない。しかし、大事なものは、やはりストーリーや感情だ。学生たちはキャンパスで「この映画は素晴らしい画だったね」と話しているが、画が大事なのではない。キャラクターやシチュエーションが大事なのだ。優れた技術はストーリーを述べるための助けに過ぎない。どのような効果を出すかに注目が集まっているが、私はあくまでもストーリーが大切だと思う。古い考え方なのかもしれないが、今はストーリーにあまり重きを置かれなくなっているように感じる。

基本情報
事業名
UNIJAPAN Entertainment Forum
会場
政策研究大学院大学 想海樓ホール(東京都港区六本木)
開催日
2010/10/27(水) 17:00 - 18:30
主催
経済産業省/公益財団法人ユニジャパン