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イベントレポート:ドラマ『蒼穹の昴』共同制作の舞台ウラ
概説
 原作は日本、監督は中国、キャスト・撮影・制作は両国という、日中合作である「蒼穹の昴」。このドラマが成功を収めるまでには、いったいどのような準備や努力があったのか。実務に携わったプロデューサーが舞台裏を語った。
内容

登壇者

廣瀬哲雄/Tetsuo Hirose

株式会社アジア・コンテンツ・センター 「蒼穹の昴」制作統括

今津宏巨/Hironao Imazu

株式会社アジア・コンテンツ・センター 「蒼穹の昴」プロジェクト統括

1.「蒼穹の昴」が出来上がるまでの道のり

廣瀬哲雄:

 「蒼穹の昴」は、アジア・コンテンツ・センター(ACC)にとって全く初めての共同製作ドラマであり、資金的にも非常に大きな番組だった。これをうまく乗り切ればACCの次の展開が開けるという、高いハードルを設定してチャレンジした番組だ。スタートに際しての最大の課題は、少しでも安心できる製作スケジュールが作れるかということだった。好評のうちに放送を迎えることができたが、最初からこの結果が見えていたわけではなく、手探りの状態だった。

 「蒼穹の昴」の原作は浅田次郎氏の小説だが、当初、ドラマ化については全く考えずに本を読み始めたが、読み終えてみると非常にすばらしい内容で感激したため、ACCの第1作目として選んだ。しかし、この小説を映像化するには、中国と手を組まなければできない。日本だけで作ることは不可能だという点も、アジアとの共同製作を目指していたACCの立党精神と合致した。こうした理由から、ぜひ共同製作にチャレンジしてみたいと思った。

 手始めに、原作をもとに日本語版の脚本を作った。脚本家にお願いして日本語版の20話分を作り、それを中国語に翻訳して中国に乗り込んだ。1年近くかかってしまったが、中国では原作者の浅田次郎氏の名前も知られていないし、「蒼穹の昴」とはいったいどういうストーリーなのかということを中国側に分かってもらうためには必要な作業だった。

 中国語の翻訳が出来上がったところで現地の会社を回ったが、その反応はさまざまだった。ようやく4か所目で興味を示してくれたのが、北京華録百納影視であった。我々は「華録」と呼んでいるが、北京を中心に良質なドラマを作っているプロダクションである。社長でありプロデューサーの劉氏がなぜ「蒼穹の昴」の製作に賛同してくれたかというと、華録としても海外展開を図っていきたいと考えていたからだ。中国ではラジオテレビ省という監督官庁の力が相当強く、たまたま我々が話を持っていった当時は、清朝の時代ものが相当製作されていたため、ラジオテレビ省は「清朝物はもういい」というお触れを出していた。しかし、劉氏は日本のプロダクションと組んで作れば何とかなると思い、この話に乗ってくれた。

 当初、日本語版の原作は20話で、45分×20話という構想で伝えていた。しかし、中国サイドからは本数が少ないと盛んにいわれた。日本の放送は週1回で25週、約半年間の放送になる。中国では北京テレビというBSがメインの放送局で放送したが、中国の放送はひと晩に2本で、しかも連日行われる。つまり、25本作っても2週間で放送が終わってしまうというのだ。最終的にNHKへ売ることになったが、NHKにとって20本は相当多い本数であった。この放送編成の違いを、当時はお互いに理解できなかった。最後には25本ということで折り合いを付けたが、華録はもっと増やしたいという希望を持っていた。

 「蒼穹の昴」は時代劇だが、実在の人物とフィクションが混ざる自由な展開の話である。時代劇という範疇でドラマを作ろうとするとラジオテレビ省の検閲が厳密になるので、それを避けるためにエンタテインメントという位置付けで製作を進めた。しかし実際には、日本と中国の違い、風土の違い、文化の違いに随所でぶつかった。まず、科挙や宦官に対する認識に大きな隔たりがあった。我々も言葉としては知っているが、中国人が日常どのように受け入れているのかが分からなかったため、科挙や宦官をどうやって物語に取り込んでいくかといったやり取りに、およそ半年間もかかった。

 次に出てきた大きな問題は、登場人物をどのように扱うかということだった。番組を面白くするために邪魔になるものとそうでないものを決める、番組論に関わる部分だ。さらに、ラジオテレビ省の検閲があるから、そこをどうクリアしていくかという問題もあった。これにはさまざまな要素が絡み合い、我々もなかなか判別しにくいところがあった。

 製作終了までの3年間で我々が最も気にした点は、撮影などが順調に進むかということは当然として、チベットの暴動や中国のオリンピック開催への反応といった不可抗力なものだった。しかし、結果的には乗り越えることができた。

2.成功した中国との共同製作

廣瀬哲雄:

 脚本は最終的には楊海薇氏という台湾出身の方にお願いした。台湾で翻訳された「蒼穹の昴」を読み、更に大陸で翻訳された簡体字の「蒼穹の昴」を読んで、その上で我々が持ち込んだ脚本を見てくれた。このようにあらかじめ内容に精通していてくれたので、非常に話がしやすかった。

 主人公は、宦官の李春雲(り・しゅんうん)と官僚の梁文秀(りょう・ぶんしゅう)である。しかし、このふたりは全くのフィクションだ。彼らの生活感を出そうとするとテレビにはなじみにくいところがあり、そこは冒頭のシーンだけにした。登場人物をどう位置付けていくかを議論するために、北京には何度も通った。最後に困ったのが、西太后役を誰にするかということだった。仲間に加わってくれた平山武之プロデューサーに「日中の共同製作のシンボルになるような女優はいないか」と聞いたところ、田中裕子さんの名前が挙がった。彼女はドラマ「おしん」でヒロインのおしん役を演じた女優で、この作品は中国でも放映されており、現地ではかなり有名だ。華録に彼女の名前を伝えたところ、ふたつ返事でOKということになった。

 共同製作という骨組みができ、そのシンボルとして西太后を日本人が演じることになったが、実は不安があった。なぜなら、ドラマの中では誰もが西太后にひざまずくからだ。見ようによっては「日本人にひざまずく」という見え方になりかねないため、西太后を日本人が演じることに不安があった。しかし、撮影が始まって1日も経たないうちに、若い李春雲や梁文秀などの役者たちが田中さんを尊敬していることが分かった。田中さんは西太后のことを相当深く想っており、それが演技の随所に出ていたからだ。 いろいろなやりとりを経て、合意に達したところもあった。病気、怪我や天変地異、政治的なものも含め、内容変更の場合はどうするかという取り決めを行った。

今津宏巨:

 製作現場へはひと月に一度か二度、足を運んだ。中国のハリウッドと呼ばれる広大な敷地にセットが並んでいたが、ここは制作と観光を組み合わせており、単純に映画のセット村というだけではなく、撮影風景を観光客が見ることができる。年間に約500万人が訪れ、我々が撮影していた時は同時に28チームが撮影していたようだ。歩いていると、すぐに別の撮影クルーに出会う。冗談のようだが、出発する時は隣の撮影チームに付いていかないようにという注意事項があった。

 我々が感心したのは、地域ぐるみの撮影支援だ。NHKの放送でも、視聴者からの意見で最も多かったのは、セットや衣装、小道具などが見事であるということだった。専門の美術チームはいるものの、スタッフの数が足りないため、地域の人々や一般人にも参加してもらって作ったが、みんな熟練されていて完成度は高いものだった。

 言葉の面では、田中裕子さんは日本語で演じ、中国側の俳優は中国語で演じた。台本も日中両方の言葉で作られていた。「田中さんの台詞が終わったら、今度は中国側の台詞」という事前の打ち合わせも行ったが、相手の台詞がいつどこで終わるのか分からなかった。田中さんの台詞は「わらわは~じゃ」となることが多いので、中国側は田中さんが「じゃ」と言えば台詞が終わると覚え、このタイミングを待っていた。およそ100日間、日本側はこのような方法で撮影に臨んだが、言葉を越えたコミュニケーションが得られるようになったと田中さんは言っていた。

3.「蒼穹の昴」を成功させるために臨んだ契約交渉

今津宏巨:

 私の役割は制作統括の廣瀬を補佐し、クオリティ面で責任を担っている平山プロデューサーを含めた、チーム作りの支えになることだった。「蒼穹の昴」の製作が実現しそうだというタイミングで、一気に契約を成立させていかなくてはならなかった。細かいものはたくさんあるが、まず成立させなければいけなかったものは以下の6本の契約であった。

  • 原作 映像化権契約(日本・海外)
  • 日本=中国 共同制作・共同事業契約
  • 制作協力契約(プロデュース、日本語版)
  • (日本国内)製作委員会契約
  • (日本国内)テレビ放映許諾契約
  • (日本国内)ビデオグラム化許諾契約
 どれかを優先し、どれかを後回しにするのではなく、短期間の間にそれぞれの契約条件を整えながら同時に進めていかなければならなかった。

 共同製作する上で初期の段階からコンセプトにしていたことは、「日本と中国は平等、対等の関係」であるということだった。製作費の透明化も乗り越えなければいけない大きな問題だったので、日中共同製作を経験した人物にもヒアリングした。

 決定権者の明確化という点では、契約の中に個人名も記していった。つまり、脚本内容、出演者について誰が決定するのかということだ。日本側は廣瀬と平山プロデューサー、中国側は華録の劉社長。補佐する役割として、廣瀬には自分を、平山プロデューサーには中国から帰化したリーチンというスタッフを付けた。事業テリトリーの明確化は、日本と中国、それから海外と三つのテリトリーに分けて、お互いが最大収益を挙げるためにどう努力していくかをうたっている。契約時に共通原版を作るということで、完全に1対1のイーブンで原版を作った。

基本情報
事業名
UNIJAPAN Entertainment Forum
会場
政策研究大学院大学 想海樓ホール(東京都港区六本木)
開催日
2010/10/26(火) 14:30 - 16:00
主催
経済産業省/公益財団法人ユニジャパン