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イベントレポート:これからのコンテンツビジネスに求められる人材像とその育成について
概説

国際的にコンテンツビジネスを推進していくためには、マーケティング、技術、流通といったさまざまな分野でプロデュースに関わる人材が必要である。2016年2月27日 (土) に、国際コンテンツビジネスの最新動向を把握し、日本のコンテンツを国際展開していくための方法やそこで必要とされる人材像とその育成方法を探ることを目的とした「国際コンテンツビジネスフォーラム」が開催された。本セッションでは「人材開発」をテーマにプレゼンテーションとディスカッションが行われた。

内容

登壇者

シェイマス・ハート/Seamus Harte

Storytelling and Media Curriculum Designer, Institute of Design at Stanford

エミリエン・モヨン/Emilien Moyon

Director of the Global Entertainment and Music Business Program at Berklee College of Music, Valencia Campus

モデレーター

清田 智/Satoshi Kiyota

公益財団法人ユニジャパン 人材育成チーム プロデューサー

1.Institute of Design at Stanfordの人材育成事例

Seamus Harte:

Institute of Design at Stanford (以下、d. school) の使命は、イノベーターとなる人材を育てることだ。d. schoolの創立者は、「イノベーターを養成する」「デザインシンキングを使って画期的なアイデアを生み出す」「さまざまなチームで面白いコラボレーションをして、世界の大きなプロジェクトを手がける」ということをマニフェストとして記している。

デザインシンキングとは、「共感」「定義化」「アイデア化」「プロトタイプ化」「テスト」という考え方のプロセスである。このプロセスを使えば、明確なゴールが見えていなくても、様々な創造性のあるアイデアを思いつきながらプロジェクトを完成させることができる。そして完成後には、プロジェクトで何を伝えたいのかを話してもらう。いくら素晴らしいアイデアを思いついても、そのアイデアを伝えて説得することができなければ、そのアイデアは実現しないからだ。ストーリーこそがアイデアを生み、考え方、行動、感情を変革させることができると考えている。

ビジョンが定まらないままプロジェクトを進めていたら、チームは迷走してしまう。そのようなときに大きな力を発揮するのが、誰もが持っているスマートフォンだ。これを使えば、思いついたストーリーを瞬時に語り、ストーリーにフィットするメディアを自由に試し、瞬時に反応を得ることができる。自由な発想で、決められたメディアでは作り出せなかったユニークなイノベーションを創造できるだろう。フォーマットは、いつもの2時間の尺のある映像でもなくてもよいということだ。

2.Berklee College of Musicの人材育成事例

Emilien Moyon:

スペインのバレンシアにあるBerklee College of Musicは、音楽ビジネス、作曲、テクノロジーを学ぶ修士課程の学校である。常に考えているのは、学生たちが業界で成功できるように、どのように教えるかということであり、いかに業界に適応できる学生を育成できるかに重点を置いている。

キャリアパスを考えるにあたって、「情熱にしたがって仕事を選べ」とよく言われるが、これは最悪のアドバイスである。学生には、「情熱がもてること」と「自分のスキル」、さらに「市場の現実」との接点を探せとアドバイスしている。もうひとつの重要なアドバイスは、「運を信じるな」ということだ。運は、「準備」と「機会」がちょうど揃ったときに生まれるものであり、決して偶然ではない。こうした考えから、学生に多くの機会を与えようと、業界のさまざまな方面で活躍しているゲストをキャンパスに招いている。ゲストの数は、(学年のはじまる) 9月からすでに40人以上、学年が終わるまでに50人ぐらいを予定している。

キャリアのリスクは、早い段階にとったほうがいいと考えている。若いときに何かを始めた人は、成功、失敗を含めて、さまざまな経験によってキャリアの選択肢を広げることができたという特徴がある。そこで、TED Xというカンファレンスの組織運営を、学生に任せてみることにした。このとき、「失敗するも、成功するも君たち次第だ。でも、失敗したとしても学ぶことは多くある」とアドバイスしているが、幸い、このイベントは大成功を収めている。経験を通じて、リスクをとり、責任を負い、さらに成功を収めた体験が、今後の大きな自信につながると考えている。

長期的な視点でリスクを低減するために、他業種に転用可能なスキルを獲得することも重要である。そのため、ビジネスクラスでも、財務などのほか、テクノロジーを教えている。また、DJの授業もあり、学生たちのクリエイティビティ向上に役立てている。

3.国際的に活躍できるコンテンツプロデューサーの人材育成

Seamus Harte:

ストーリーとメディアとデザインシンキングを活用して、どの業界にも転用できるスキルを身につけることを目指している。卒業から5年、10年経てば、テクノロジーや市場の状況が変わっているだろうが、時代の流れについくには応用力のあるスキルが重要だ。

特定の入学希望者を優遇することはせず、できるだけ多種多様な人材からなるクラスを実現しようとしている。クラスの準備にかける時間の80%は、より多様な状況を生み出すことに費やしていると言ってもいいだろう。多様な人たちが集まることによって起きる摩擦は、素晴らしい効果を生み出してくれる。だから、摩擦を避けるのでなく、安全な環境の中で摩擦を生み出し、自分とは違う視点でものを見る機会を与えることが大切だ。お互いの文化的な違いやコミュニケーションのあり方などを話し合う必要が生まれるが、うまくいきだすと、自分と似たような人たちだけでは生み出すことのできないユニークなアイデアを創出することができる。

実際に業界で活動している人が教えることも重要である。私が担当しているメディアプロダクションの授業でも、本で読んだこと、あるいは10年前にやったことではなく、実際に今、自分が手がけている仕事について伝えている。常に柔軟な姿勢で、そのときどきに社会で起きていることを教えることが大事だと考えている。

学生時代に私がスタンフォードを選んだ理由は、映画について学びたいというより、あのネットワークに入りたいと思ったからだ。友人になりたいと思える人と、同じ環境にいたかったのだ。このような人間が中心となるアプローチはとても重要で、デザインに対する考え方にも影響を及ぼす。オンラインツールも大事かもしれないが、今はむしろ、人と人の対面での関係にフォーカスを当てなければいけないのではないか。

Emilien Moyon:

重要なのは基本的な考え方であり、Berklee College of Musicは音楽業界の学校だが、そこで学ぶスキルは他のコンテンツ産業にも十分に応用可能である。学生たちは、同じ音楽業界を目指しているが、皆それぞれ違う目標を持っている。卒業後も、音楽業界の状況はどんどん変わっていくだろう。だから、自分のキャリアをコントロールすること、つまり、多くの起業家たちのように、長期的なキャリアの中でどんなスキルを将来の資産としていくかを考えるべきだ。

入学時の選考基準として、成績よりも人格、感受性、ビジョンを重視している。彼らが課外授業で何をしてきたのか、何に興味を持っているのか、どんな気持ちで仕事をしているのか、業界に対して長期的な視点で何に貢献したいのか、などに興味がある。

また、クラスに多様性をもたせることは非常に重要だと感じているので、学生募集には時間をかけている。1プログラムの定員は40人だが、各クラスにさまざまな経験をもつ人が分散するようにしている。例えば、ビジネスを学んだ人、エンジニア、建築士、ミュージシャン、アーチストなど、バラエティ豊かなメンバーになっている。また、国という意味でのダイバーシティもあり、今年は、25カ国からの学生が在籍している。

こうした多様性は、当然のことながら多くの問題を引き起こす。例えば、クラスの中でチームを組んで実習するような場合に、学生自身にチームを決めさせると、北米人だけのグループになったり、アジア人だけの偏ったグループになったりしてしまう。そのため、チーム分けは学校側が決めることにしているのだが、ここで、文化によるコミュニケーションの違いで大きな摩擦が起こってしまう。他の人より発言する人、主張する人、受け身の人などが混在して、うまい力関係をつくりだすのが非常に難しいのだ。しかし、クリエイティブな発想を生み出すという点では、何物にも代えがたい効果を発揮する。深いディスカッションをするようになり、より革新性のあるアイデアが多く出るようになるのだ。正しい答えがあるわけではないが、素晴らしいソリューションとなったのは間違いない。

卒業生は、音楽関係の様々な企業にいるが、音楽業界以外の仕事に就く人もいる。例えば、コカ・コーラのマーケティング部門のトップはプログラムの卒業生であり、起業した人も多い。典型的な進路を説明するのは難しいが、私たちの生徒が音楽業界、エンタメ界のみならず、さまざまな業界で幅広く活躍していることをうれしく思っている。

基本情報
事業名
国際コンテンツビジネスフォーラム
会場
TKP市ヶ谷カンファレンスセンター8F 大ホール (新宿区市谷八幡町)
開催日
2016/2/27
主催
経済産業省 / 公益財団法人ユニジャパン