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フィルムスクールとは

(更新日: 2014/11/14)

 フィルムスクールとは、多くの映画プロデューサー、監督、脚本家、技術スタッフを輩出する高度な映画教育機関である。ここでは、フィルムスクールに通う意義、プロデュース学科のメリットなどについて紹介する。

プロデューサーになるための第一歩

ハリウッド映画におけるプロデューサー

 日本の映画業界では、“映画はあくまで監督のもの”という認識が一般的である。プロデューサーは監督のパートナーとして、資金調達や配給といったビジネス面をサポートする存在となっている。

 一方、アメリカのハリウッドにおける映画製作は、プロデューサー主導のケースが多い。監督が企画した映画は全体の10%程度に過ぎず、大半はプロデューサー主導で作られた映画だといわれている。一般的なハリウッド映画では、プロデューサーが送られてきた脚本やプロデューサー自身が見つけた原案を基に、脚本家と一緒に脚本開発を行なう。監督はその過程の進行中、あるいは終了後に参加することもある。アカデミー賞の作品賞がプロデューサーに渡されるのは、このためだ。近年、日本の状況が変わってきているとはいえ、日本とハリウッドではプロデューサーの職務に大きな差異があるといえるだろう。

 また、社員プロデューサーが大半を占める日本と異なり、アメリカの映画・テレビ業界のクリエイターはほぼフリーランスによって構成されている。プロデューサーを志望する者は、まずはインターンシップで映画業界に入り込み、脚本の下読みや雑用をこなしつつ徐々にキャリアアップしていくケースが多く見受けられる。

 ハリウッドでプロデューサーを目指すには、ビジネスとクリエイティブ両面を深く知ること、そして映画業界への足掛かりをつかむことが第一歩となる。

フィルムスクールで学ぶ意義

 そこで重要な役割を果たすのが、フィルムスクールである。日本ではあまり知られていないが、ハリウッドでは映画教育機関として広く認知されている。各スクールからは、ジョージ・ルーカス(George Lucas)、ロバート・ゼメキス(Robert Zemeckis)、デビッド・リンチ(David Lynch)、テレンス・マリック(Terrence Malick)、フランシス・フォード・コッポラ(Francis Ford Coppola)、マーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)、スパイク・リー(Spike Lee)ら著名な映画監督が輩出されているうえ、プロデューサー、脚本家、撮影監督といった映画製作スタッフにもフィルムスクール出身者が多い。次世代の人材育成拠点として、ハリウッド側でも財政面、人材面で多大なバックアップをしている。

 広義のフィルムスクールとは学部・大学院・専門学校レベルの映画教育を行なう教育機関を指すが、本書では大学院レベルに相当する2年制、3年制のMFAプログラムをフィルムスクールと称している。MFA(Master of Fine Arts)とは美術学修士号を指し、近年アメリカで注目度を増している学位である。ニューヨーク・タイムズ紙が「映画のMFAは一昔前のMBA(Master of Business Administration: 経営学修士号)のようなものではないか」と提起した記事を掲載したり、著名な経営コンサルタントが「企業の求める人材が、左脳型のMBAから右脳型のMFAにシフトしつつある」という説を唱えたりするなど、ビジネス界においても有用かつ重要な資格と見なされるようになっている。一流ビジネススクールに合格したにもかかわらず、フィルムスクールへの進学を選択 するケースも見受けられる。

 大学卒業後、フィルムスクールへストレートに入学する者もいるが、実際に現場で映画製作を経験してから入学する者のほうが多い。フィルムスクールでさらなる制作経験を重ねることで、キャリアアップを目指すのがその目的といえる。

プロデュース学科のメリット

 フィルムスクールの中でも、プロデューサーの育成に特化したのがプロデュース学科である。クリエイティブとビジネス、その両面から映画製作を学ぶことができる。

 クリエイティブ面では、脚本の開発、ピッチ(企画の口頭プレゼンテーション)の手法、短編映画制作などを行なうケースが多い。ビジネス面では、契約や財政的な合意、スケジュールや予算、配給やマーケティングなど、映画製作に関わる法律、事業としての側面に焦点を当てる。そのため、プロデュース学科のカリキュラムは映画学校というよりも、エンタテインメント業界におけるビジネススクールといった様相を呈している。座学中心だが、授業ではディスカッションやロールプレイングが取り入れられることも多い。また、弁護士やスタジオ幹部、プロデューサーがゲストとして招かれ、講義を行なうこともある。

 そして双方を学んだうえで、実際に映画を製作するための工程を学んでいく。撮影のための予算とスケジュールの立案・管理を実地で学び、理解を深める目的だ。

 プロデュース学科で学ぶメリットは、大きく3点挙げられる。

①知識の体系化

映画をプロデュースするうえで、必要な知識、技術を効率的に獲得できる。ストーリーの企画開発、スケジュールや予算の立案・管理、法務、マーケティングなど幅広い知識を、2年から3年で吸収することが可能だ。

②映画製作に没頭できる環境

フィルムスクールに在籍する期間は、映画を鑑賞し、映画について議論し、知識と技術を身につけ、映画の種となる企画を練り上げる、またとない好機である。働きながらでは、自分に投資する時間がなかなか取れない。映画製作に専心できる場、人生を振り返り、自分のスタイルを見極める場として、これ以上の環境はないといえる。

③映画業界とのネットワーク形成

最大のメリットは、この点だろう。ハリウッドの閉ざされた社会では、インターンシップで無給の職をつかむことさえ難しい。しかし、多くの人材を映画業界に送り込んできたフィルムスクールに通っていれば、企業の信頼も厚く、職を得るチャンスも広がる。卒業生や教員、共に学ぶ仲間たちとネットワークを築き、その後のキャリアに役立てることもできる。

学部、短期プログラム、MBAプログラムとの違い

 フィルムスクールに限らず、大学の映画学部、映画学校、MBAプログラムにおいても、映画製作、映画ビジネスを学ぶことはできる。

 アメリカの大学には、ほとんどといってよいほど映画学部が存在し、その数は600校以上にものぼる。カリキュラムは、映画の歴史や批評を中心とした映画学、初歩的な映画制作技術が中心となる。そのため、プロデューサーに必要なビジネスの知識を培うのに適しているとはいい難い。ただしフィルムスクールに入る前段階として、映画学部を卒業するケースが多い。

 また、短期間で映画制作を学ぶスクールも存在する。年単位ではなく、週や月単位で授業が行なわれ、授業料は大学と比べて微々たるものだ。しかし、このような短期プログラムで習得できるのは、カメラを使った撮影技術に過ぎない。機材の使い方を学ぶことはできるが、プロデューサーに必要な脚本開発のノウハウやビジネスの知識を得るには、やや物足りなさを感じるだろう。

 さらに、映画をビジネスの視点で学ぶビジネススクールに通い、MBAの学位を取得するという選択肢もある。総合大学の中には映画ビジネスの授業をフィルムスクールとビジネススクールが共同開講しているケースが多く、ビジネススクールにおいてもエンタテインメントビジネスを学ぶことができる。実際、ハリウッドで活躍するプロデューサーの中には、MBA保持者が多くを占めている。ただし、ビジネススクールには映画業界とは関係のないビジネス基礎知識の授業が多い点に留意したい。また、卒業後はクリエイティブ面にはタッチせず、ビジネス面のサポートのみを行なうケースも少なくない。企画立案から作品に深く関わり、我が子を育てるように完成へと導くプロデューサーを目指すなら、フィルムスクールが近道といえるだろう。

アメリカを代表する5大プロデュース学科

 1929年に設立されたUniversity of Southern CaliforniaのSchool of Cinema-Television(のちにSchool of Cinematic Artsへ改称)を皮切りに、アメリカには数多くのフィルムスクールが存在する。その中でもUniversity of Southern California、American Film Institute Conservatory、University of California, Los Angeles、New York University、Columbia University in the City of New Yorkは、ハリウッドで活躍する映画プロデューサーを多数輩出しており、良質なプロデュース学科を有するフィルムスクールとして知られている。

 トップ5に数えられる各プロデュース学科の紹介は別途行うが、ここではその概要を紹介する。

University of Southern California(USC)
Peter Stark Producing Program

1929年に設立された、アメリカで最も歴史あるフィルムスクール。クリエイティブとビジネスの両面に重点を置いている。映画業界で活躍するトップクリエイターがゲストとして登壇し、遂行中のプロジェクトについて語る授業も設けられている。

American Film Institute(AFI)
Conservatory Producing

AFIは映画文化遺産の保護、映画振興を目的に、1967年に設立された芸術組織。その中でも映画芸術の教育機関であるAFI Conservatoryは映像製作を中心としており、スケジュールや予算を実際に組みつつ製作工程を学ぶ。他プログラムとのコラボレーションにより、人間関係のマネジメントを含めた製作現場を体験できる。

University of California, Los Angeles(UCLA)
Producers Program

ハリウッドの中心地にキャンパスを擁する、1919年設立の総合州立大学。インディペンデント映画の製作に強く、構想、創造、完成といった観点からカリキュラムを構成している。ストーリーテリングや新しいメディアへの対応にも力を入れている。

New York University(NYU)
MBA / MFA Dual Degree Program in Producing

1831年に創立された、アメリカ最大の私立大学のひとつ。プロデュース学科のMBA / MFA Dual Degree Program in Producingでは、ビジネススクールとの提携によりMBAとMFA、両方の学位が取得できる。1年次はビジネス、2年次は映画製作について学習し、3年次は両方の選択科目を履修して学業を締めくくる。

Columbia University in the City of New York(Columbia)
Creative Producing

1754年に創立され、ノーベル賞受賞者を多数輩出している私立大学。3年間掛けて映画製作を多角的に学習し、プロデューシングに限らず、監督、脚本執筆から演技指導まで、ワークショップを通じて広く学ぶことができる。創造力にあふれ、幅広い視野を持つ人材を育てている。